孫基禎寄贈青銅兜
孫基禎(ソン・ギジョン、1912~2002)氏は、1936年ベルリンオリンピックで優勝した世界的なマラソン選手です。韓国の人々は孫基禎氏を民族の英雄として記憶しています。しかし、孫基禎氏が当時、オリンピックをはじめとする国際マラソン大会に出場するために世界中を回り、各地の博物館を訪ねるなかで蒐集や寄贈の文化に触れたことを知る人は多くありません。この兜は同氏が1986年にドイツから返還してもらったものですが、それを国に寄贈することを決めたのは、この兜の持つ公共の価値や寄贈の意義をよく理解していたからです。1994年に兜が国立中央博物館に寄贈されたことで、私たちは兜が秘める過去の物語を受け継ぎ、そこに新たな物語を足して未来につないでいけるようになりました。
ここは、「ギリシャの青銅兜」というエキゾチックな品が、どのようにして孫基禎氏や彼がマラソンで優勝したことを思い起こさせるのか、また、寄贈によって今の私たちとどうつながっているのかを理解していただくために企画した空間です。孫基禎氏がマラソンで優勝した物語と、過去、現在、そして未来へとつながる兜の記憶を分かち合いたいと思います。